「開業届」は出す必要ある?

 「開業届」とは「個人事業の開業・廃業等届出書」のことで、新たに事業を開始したことを税務署に知らせるための書類です。所得税法により事業の開始等の事実があった日から1か月以内に提出します。開業届は提出しない場合の罰則規定がないため、提出しない人もいますが、以下のようなメリットもあるため、提出するようにしましょう。

参考 国税庁ホームページ「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」

開業届が必要な例

■青色申告
税制上の特典がある青色申告を行うためには、青色申告承認申請書とともに開業届が必要です。

■屋号での銀行口座の開設
屋号で口座名義を作る場合、手続きなどは金融機関で異なりますが、開業届の控えなどを提出する場合があります。

■小規模企業共済へ加入
国の機関である中小機構が運営する個人事業主などのための積み立てによる退職金制度です。加入の際、開業届の控えが必要な場合があります。

参考 中小機構ホームページ「小規模企業共済」

■保育園などの就労証明
個人事業主が就労による保育認定を受ける場合、開業届のコピーや税務関係の書類を提出する場合があります。

開業届は手数料などもかかりませんので、上記のような場合を考えると提出するメリットは大きいと思います。

会社を辞めて起業をする場合は

 会社を辞めて雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受給している場合、その手当の主旨から開業届を提出すると基本手当はもらえなくなります。ただし、条件により「再就職手当」が受給できる場合があります。再就職手当を申請する場合も「開業届」が必要になります。これから会社を辞めて起業準備をする場合は会社設立のタイミングと失業手当の手続きなどもよく考えて行動するようにしましょう。

事業用の銀行口座を開設しましょう

 法人の場合は当たり前ですが、個人事業の場合でも、仕事とプライベートの資金の出入りをしっかり分けることが経理処理のポイントです。資金管理や確定申告でも事業用口座が必要になりますので、事業用の銀行口座を早めに開設しておきましょう。なお通常口座と屋号付き口座では金融機関によって手続きや必要書類に違いがある場合がありますので確認しておきましょう。事業用口座開設に必要な主なものは以下です。
  ・本人確認書類(免許証など)
  ・税務署の受領印が押された開業届出書
  ・印鑑(銀行印)


事業に使う店舗や事務所を決める

 店舗や事務所を必要とする事業の場合は、事業計画書の作成段階で、おおよその開業場所や賃貸などの必要経費を調べておくことになります。そして資金調達などの準備と並行して、契約する店舗や事務所を決めることになります。店舗等の選定にあたっては、当面の事業に適した広さ、集客や従業員の通勤に適した土地、資金面に無理のない家賃・共益費、エアコンなどの既存設備の状態などの面から検討します。契約する店舗が決まったら、損益計画書や資金繰り表をもう一度修正しましょう。

■店舗・事務所の選定ポイント

・当面の事業に適した 【広さ】
・集客や従業員の通勤に適した 【立地】
・賃金的に無理のない 【家賃・共益費】
・エアコンや給排水設備など 【既存設備の状態】

店舗や事務所の賃貸借契約

 店舗や事務所を借りて事業を始める場合、賃貸借契約時にいくつか注意するべきポイントがあります。

1)契約形態
 「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」があります。普通建物賃貸借契約は2~3年程度の契約期間で更新もできますが、定期建物賃貸借契約は5~15年程度に期間が定められた契約で、原則として期間満了で契約終了となります。再契約できない場合もありますので注意しましょう。

2)敷金(保証金)・更新料
 敷金は、契約の担保として賃貸人に預けるもので、事業用物件の場合、居住用よりも多くの金額が設定されていることが多いようです。なお保証金については、敷金とは別の意味が含まれている場合があり、返還されないこともありますので確認が必要です。更新料は、契約の満期時に契約更新のために必要なものです。

3)引き渡し条件
 契約満期や解除時に、どのような状態で物件を引き渡手ばよいか確認しておきましょう。

4)解約通知
 店舗等の場合、解約する時の申し出期間が長めに設定されている場合があります。解約のタイミングを間違うと、不必要な経費がかかってしまうので注意しましょう。

5)内外装工事・設備設置
 借主の許可なく工事等を行うと契約違反になりますので、確認をとっておきましょう。

6)火災保険への加入
 賃貸借契約では火災保険に加入することが必須です。借主の意向を理解した上で、補償範囲や特約などを自分で吟味して内容を決めましょう。

 これらのほかにも、関東と関西で商習慣が異なり、敷金や契約に関しても考え方が違う場合があります。また、外国人が物件を契約する場合も母国と考え方が違う場合がありますので、あとからトラブルとならないよう、契約書は熟読するようにしましょう。

店舗や事務所の設備とレイアウトを考える

■事務所や店舗の準備ポイント
 事務所や店舗の契約を終えたら、次は開業準備に取りかかります。準備の内容は業種によって大きく異なりますが、まず初めに事業計画書作成段階で考えた方針やコンセプトに沿って、契約したスペースを見ながら具体的なレイアウト図を作ってみることをおすすめします。その後に内装や外装・電気設備・空調・通信機器・給排水等の工事・看板設置等の準備を必要に応じて行いましょう。
 設計施工業者は、過去に勤めていた店舗や同業の知人等からの紹介、あるいはネット検索等でピックアップし選定します。できれば2社以上から工事見積りを取り、工事内容や見積り金額・支払条件・顧客対応に納得したら発注します。お店や事務所は会社の顔ですから、予算の範囲内でこだわって準備をいましょう。
 開業に必要な工事が終わったら、次は設備や備品を搬入します。実際に机やイスを入れてみると、事前に作ったレイアウト図通りにいかない場合もあります。事業スペースに合わせて柔軟に変更を加えましょう。

■設備・備品は購入? リース?
 いざ企業となると、設備や備品をあれもこれも揃えたくなりますが、必要なものをリストアップした上で、現在手持ちのもので流用できないか、また新品ではなく中古品で揃えられないか、いま必要なのかなどを考え、なるべく初期費用を増やさないよう選定しましょう。設備や備品の調達方法としては、購入・リース・レンタルなどの選択肢があります。メリット・デメリットについては下表の通りです。

■備品調達方法の違いによるメリット・デメリット

購入 メリット 商品の選択肢が広い 自由に手を加えられる 適した備品 長期間使用する設備機器類
デメリット 導入費用が高い 入替時に廃棄コストがかかる 比較的価格が低い機器類
リース メリット 初期費用が抑えられる 月々の支払いが経費扱いになる 適した備品 定期的に交換したい設備機器類
デメリット 中途解約ができない 所有権がない 価格が高い機器類
レンタル メリット 中途解約できる 月々の支払いが経費扱いになる 適した備品 たまにしか使わない車両
デメリット 自由に商品を選択できない 長期利用の際は割高になる 設備機器類

スタッフの採用と教育

 飲食業など、起業時にパート・アルバイト等のスタッフが必要な場合は、開業準備と並行して採用活動を行います。スタッフを採用する場合、ハローワークを使う方法もありますが、求人前に事業所登録をする必要があり、開業届を出していないと登録さえもできません。まずは友人・知人に声をかけて、手伝ってくれそうな人を探してみてはどうでしょうか。
 またスタッフを雇用する場合は、オープン前にしっかり教育をしておくことが大切です。なぜなら、スタッフの仕事の質が集客や売り上げにも大きな影響を及ぼすからです。(参考 店舗や人材は口コミにも影響する「オープンしたばかりなので、スタッフ教育が行き届いていない」というのはお客様に通じません。対応によっては、もう来てもらえない可能性もあります。業務の内容に応じてマニュアルを作成するなどし、採用後、それに沿って研修を行いましょう。
 加えてスタッフが働きやすい環境づくりも大切です。スタッフが定着しないと採用・教育コストがかかるのはもちろん、スタッフのスキルが高まらず、職場全体のサービスの質の低下に繋がります。お客様だけでなくスタッフの満足度も高めて、長く働きたくなるような職場づくりを行いましょう。

外国人を採用する場合

 日本に住む外国人を採用する場合は、必ず在留資格を確認し、その在留資格の活動制限を守って雇用しなければいけません。正社員として雇い入れる場合はもちろん、日本へ留学している外国人をアルバイトとして雇い入れる場合も例外ではありません。例えば、在留資格が「留学」の学生で資格外活動としてアルバイトが許可されている場合も、週28時間以内(長期休業中は週40時間以内)と決められており、そこには残業時間も含みます。また、アルバイトを掛け持ちしている場合は1社だけでなく全て合計し28時間(あるいは40時間)以内となっています。
なお、外国人を雇い入れる場合は事業主がハローワークに届出も必要です。規則を破ったり、届出を怠ると外国人本人だけでなく事業主も処罰の対象となりますので注意しましょう。(参考:2-5 店舗・設備・人員計画を作成する

参考:厚生労働省ホームページ 外国人の雇用 
   新潟県外国人材受入サポートセンター 

集客活動をはじめよう

 起業後、いいスタートを切るために開業届を提出する前から、誰に、どういったものを、どのように展開していくか、しっかりスケジュールを組んで集客活動を行いましょう。「2-3 広報計画を作成する」でも広告宣伝媒体について紹介しましたが、特にオープン時の集客活動として効果的なのが友人・知人への声かけやオープンキャンペーンの実施などです。

■友人・知人に広めてもらう
 自分の周りの友人や知人に、起業することを伝え、実際に店舗や事務所に来てもらいましょう。そしてオープンする店舗・事務所のコンセプトや商品・サービスを知ってもらい、 自身のことも含めてSNS等を使って接客的に口コミを拡散してもらいましょう。
 またオープン前に見学会やレセプション、試食会などを開催し、そこに招待して商品・サービスを体験していただくというのもおすすめです。
 ここで大切なのは知人・友人だからといって商品・サービスの手を抜かず、十分に満足していただけるように準備をしておくことです。その際、簡単なノベルティも用意しておきましょう。

■オープンキャンペーンを利用しよう
 店舗や事務所のオープンに合わせて、割引やノベルティプレゼントなどの特典をつけたオープンキャンペーンを実施し、新規顧客を獲得しましょう。チラシやDMハガキなどに、特典の内容が目立つように掲載し、見込み客にアピールして来店を促します。 来店したら、「いいね!」、LINE公式アカウントのお友達登録などをしてもらえる仕組みを作っておくと、リピートに繋がります。

 特定の顧客が増えてくるとSNSでの集客もしやすいのですが、開店当初は友人・知人の紹介はもちろん、チラシのポスティングやフリーペーパーやグルメサイトなどへの出稿なども利用することを検討しましょう。